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第2回避難訓練コンサート報告
「劇場で地震と火災が発生したら!?」~もしもに備えてみんなで訓練~

熊本県立劇場では、昨年3月に引き続き、今年3月にも地震を想定した避難訓練コンサートを開催しました。前回と異なる主な点は、次の3点です。

 

1 地震の後で、火災が発生するという設定にしました。

現実的な設定ですが、スタッフにとっては、より高度な対応が求められます。

 

2 継続的に実施できるよう、経費削減とシンプル化を図りました。

スタッフの危機管理対応能力を向上させるには、何度も何度も訓練することが大切です。
ですが、経費の掛かりすぎや、業務量が増えすぎますと、実施自体が困難になります。
このため、公演内容を避難訓練に特化してみました。

 

3 ホール利用者のみならず、日頃から練習室・リハーサル室等を利用する団体に参加を呼掛けました。

練習室やリハーサル室を定期的に利用される方たちは、一般の方に比べますと会館で地震に遭遇する確率が高いと考えられます。 訓練に参加していただくことで、いざという時のパニック防止に繋がります。

 

参加者アンケート結果

参加された65人の方から回答をいただきました。
・公共ホールの職員は29人で、県外では沖縄を除く九州各県と、山梨、広島から参加されました。
・一般の方は36人。うち、11人が県外からの参加ですが、そのうち9人は大分県パトリア日田のボランティアスタッフの方たちです。

・男女比はほぼ半々、年齢では公共ホール職員では40代の方が、一般では60代の方が一番多く参加されました。

 

 

Q1「本日の公演をどのような方法でお知りになりましたか?(○はいくつでも)」

公共ホール職員も一般の方も「チラシ」で知られた方が多かったようです。

Q2「公共ホールには年間何回くらい出かけますか?」

4割の方が「1~5回」と答えられています。

Q3「公共ホールの防災対策に関して不安を感じたことはありますか?」

6割弱の38人が「ある」と答えています。

下記のようなご意見をいただいています。

  • 年2回の総合消防訓練を行っているが、実践で通用するかが心配である。マニュアルどおりいかないのは当然なので、訓練の回数を増やすことで、臨機応変に対応できるよう日々訓練している。〔公共ホール職員〕
  • ホール職員としての意見ですが、避難の対応に当ることのできる職員の数が少ないので(当日出勤している職員の数)きちんとした対応ができないと思う(これでは全くダメなのですが)。そういう場合、やはり主催者や、お客様の協力が必要不可欠だと感じる。〔公共ホール職員〕
  • 1000人規模の人数が一堂に集う場であり、特に地震の際は避難のタイミングが難しい。そのような場にいたときに、観客が冷静でいられるか、誘導がうまくできるか不安。〔公共ホール職員〕
  • これだけのお客が、災害時にスタッフの指示・誘導を聞いてくれるのかという不安があります。今回来館された方々だけでも、いろいろな考えをもっていると思われました。実際のときは、誘導において非常に難しいと感じました。〔公共ホール職員〕
  • 満席での人数を考えると、どのくらいの時間がかかるのか不安。〔一般〕
  • 的確な誘導がして頂けるか心配。〔一般〕

 

Q4「公共ホールで災害が発生した時にスムーズに避難できると思いますか?」

9割近くの56人が「思わない」もしくは「わからない」と答えています。

次のようなご意見をいただいています。

「思わない」28人

  • 職員一人一人の実践時に対する動きができていないと感じるため。町職員の異動や、臨時職員が多いため、継続性が薄れる。〔公共ホール職員〕
  • スタッフ(常勤)の数が少ないということと、主催者との連係がとりにくいため(連係をとるような話し合いを行っていない)〔公共ホール職員〕
  • 2000人規模のお客様が一斉に避難するにあたって、全員が誘導スタッフの指示を素直に聞いてくれるとは思えません。パニックになる前にいかにお客様を落ち着かせるか、安心させるかだと思っています。〔公共ホール職員〕
  • ホールが満員の場合は老人・子供も居ると思われるので、スムーズな行動が取れるか不安。〔一般〕
  • 訓練を受けていてもその時パニックになりそう。今日は人数も少なく誘導までじっとすることができたが、誘導するまでの時間が長く感じられ、その前に逃げる人も多くいそう。〔一般〕
  • これは避難する側の人間のモラルが保てるかどうかが問題だと思います。パニックにならないようにするためには、訓練を継続的に行っていくことが大切だと思います。〔一般〕

「わからない」28人

  • その時々の状況によるので判断が難しい。〔公共ホール職員〕
  • 災害直後にスタッフが冷静にお客様をなだめ落ち着かせられるかどうかにかかっていると思いました。館からの第一声が重要だと思われました。〔公共ホール職員〕
  • ホールの立地や形状、その日の客層など様々な要因が考えられ、一概にはいえませんが、避難経路の中に階段があったり、段差の多いホールで小さなお子様がたくさん来られている時などは、難しいと思います。〔公共ホール職員〕
  • その場になればあわてると思います。〔一般〕

 

Q5「本日の避難訓練コンサートはいかがでしたか?」

約3分の2の42人が「よかった」と答えられました。

しかしながらこの質問においては、前回に引き続き、避難誘導時の館内放送やトラメガ等のマイク、呼掛けの声の重複による声の聞き取りにくさの問題が多くの方から指摘されました。これは、会場がクラシックコンサート専用ホールで残響の良さ(長さ)が逆効果となったこともありますが、当劇場にとってはまだまだ改善が必要な大きな課題の一つです。

そのほか、避難時における正面玄関自動ドア開放の有効性や、余震や避難場所の安全対策など、貴重なご意見をいただきました。

  • 参加が少ないのが残念でした。防災意識の高揚が課題です。全体的に前回より良かったです。(ビブスの着用など改善されておられます)ホールから最低1名以上参加などPRされてもいいかもしれません。(公文協研修とパックでもいいかもです)時期も少し遅く春休みでもいいかもしれません。質問が多いので関心が高いなと思いました。〔公共ホール職員〕
  • お客様の立場で訓練を行うことが初めてだったので、とてもいい経験をさせていただきました。〔公共ホール職員〕
  • 昨年より誘導の方法等が変わって良くなっていたように思います。ただ、正面玄関の自動ドアは避難する人の安全確保のため、スイッチを切り開放しておいたほうが良かったのではないかと思いました。避難の完了後、手動で閉鎖すれば火災の対策としても大丈夫ではないでしょうか?〔公共ホール職員〕
  • スタッフさん達の動きが素晴らしく、落ち着いて避難できました。正面部分の避難場所で「お連れ様はいらっしゃいますか」とお声かけして頂いたんですが、とても重要な声かけだなぁと感じました。〔公共ホール職員〕
  • 初めて起震車に乗せて頂きました。震度7の揺れでは、地震が収まった後も、しばらくはふらつきがとれないことなど、体験してみて初めて分かりました。避難訓練では観客という立場で参加させて頂き、スタッフの方の最初の声かけでいかに焦りや不安が落ち着くか感じることができました。〔公共ホール職員〕
  • 煙がでているのなら、「ハンカチや服の袖などで口元を覆ってください」の指示とかあったらよかったと思う。妊婦さんや足腰の悪い人には「しゃがむ」のは難しいと思った。〔一般〕

 

Q6「本日の訓練では、避難する方向をどのように判断しましたか?」(○はいくつでも)

前回のアンケート結果と同じく圧倒的に多くの方が「係員の誘導に従う」を選ばれました。当然のことですが、スタッフの責任はとても重いのです。
最善の避難通路が通れなくなっていても、次善の通路へ誘導できる、それが会館のスタッフです。地震や火事といった非常時にお客様から一番頼りにされるのは、なんてったってスタッフなのです。

Q7「係員の避難誘導はわかりやすかったですか?」

約半数の方が「わかりやすかった」と答えられましたが、Q5の項目と同じく、拡声器や全館放送、係員の声のかぶりについて、わかりにくい・聞き取りにくいとの御指摘も多くいただきました。

  • 地震発生後まもなく係員の方が来て下さり「ただ今安全を確認しているため、もうしばらくお待ちください」と詳しく状況を教えてくださり、安心して待つことができました。〔公共ホール職員〕
  • 係りの方が「カホウ」と言っておられましたが、「火災報知機」のことだと少し遅れて気がついた。係員の指示に従っていつまでもじっとしているより、自分で早く逃げたいと思った。〔一般〕
  • わかりやすかったが、マイクの音が小さかった。又誘導者は全てマイクを使用すればよかったと思う。出口のライトは良かった。〔一般〕
  • アナウンスと生声が重なってわかりにくかった。〔公共ホール職員〕
  • 昨年よりは影アナ用マイクでの誘導が多くなり、会場内に状況が伝わりやすくなっていましたが、係りの方の声が反響してわかりづらかったです。また客席後方からの「避難誘導放送お願いします」の声はお客様の混乱を招きかねないので、そういった連絡は無線などを使用したほうが良いのではないかと思いました。〔公共ホール職員〕
  • 今回は注意して聞こうと思ったので理解できましたが、いくつかの場所から指示の声が聞こえてくると、どの声に従うとよいか混乱しました。また、ホールでは、予想以上にスタッフの地声は響かないことが分かりました。〔公共ホール職員〕
  • わかりやすく声かけいただくことで安心できる時と、聞き取りにくく「何か言ってるみたいだが、ここにいて大丈夫なのだろうか?」と不安に思うところもあった。〔公共ホール職員〕

 

Q8「熊本県立劇場の防災についてご意見やご感想、ご要望などご自由にお書きください。」

さまざまなご意見・ご感想をいただきました。今後の危機管理に活かしていきたいと思います。そのうちのいくつかをご紹介いたします。

  • 最悪のケースを想定した訓練が必要かなと思います。震度7想定がいいかもしれません。〔公共ホール職員〕
  • ホールスタッフはもちろんのこと、観客の側も防災の意識が必要だと思う。そういう意味でも、こういった開放された避難訓練はとても重要だと考える。ホールの観客の固定化が進んでいる今、逆手にとって有事の際の手助けにしていくことにつながると思う。〔公共ホール職員〕
  • 主催者との協力が大切であるが、打合せでどの程度までの話がされているかお聞きしたい。〔公共ホール職員〕
  • 観客数が多いと声はさらに聞きづらくなるし、パニックも起こると思うし、客席の背の高さまでは全員しゃがめないと思う。突然というか、慌てて逃げる役の人がいたらまた違うものになると思う。〔公共ホール職員〕
  • 起震車の経験、ものすごくいい体験をさせていただきました。贅沢にも2回体験させてもらい、1回目ではなにがなんだかわからなく、2回目で少し客観的に体験できました。客席内では怪我人や車椅子、トイレの閉じ込めなどの想定が入った内容で訓練を行ってみたいです。〔公共ホール職員〕
  • このような本番中を想定し、実際に一般の方が参加する訓練は初めてで、貴重な経験をさせていただきました。訓練を受けて、いかにスタッフの方の声かけで安心するかを感じることができました。私は最初2階席に座っていたのですが、地震後、椅子の間に伏せていると、舞台の様子が全く見えず、取り残されたようで不安だったのですが、すぐにスタッフの方が来てくださり安心しました。〔公共ホール職員〕
  • 訓練ではあるが、リアルで少し緊張してしまった。もしこれが本当になにかが起きたら、どうなるのだろう?と怖くなりました。今日は参加できてよかったです。〔一般〕
  • 初めて参加しましたが、とてもよい体験ができました。なかなかできないことなので、これからも続けてほしいと思います。知らない人も多いかと思いますので、学校等にパンフレットを配布していただき、もっと多くの方に体験してもらえると、尚良いのではないかと思いました。貴重な体験と素敵なコンサートで有意義な時間が過ごせました。〔一般〕
  • 災害の起きる時間帯にもよるだろうなと思いました。今回はお昼だったので、外に出た時まぶしくて目が慣れるまで時間がかかりました。夜だったら懐中電灯が無いと危ないなと思いました。また、その時のお天気や季節も大きく影響するだろうと感じました。年配者や子供への配慮も必要だと思いました。〔一般〕
  • 常に観客に声をかけていただくと、観客も安心すると思います。外へ避難を済ませた後、今後どういう経路で二次避難場所に行けるかなど説明いただけると、もっと私は安心できると思いました。取組みそのものは素晴らしいと思います。できれば1000~2000人の観客がいるときに、避難訓練をやっていただければありがたいです。〔一般〕
  • 大掛かりな訓練だと思いますが、よくやってくれているなと思います。公共ホールはどこもやるべきだと思いますが、現実に行うところは少ないように思われます。〔一般〕

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避難訓練コンサート 第1回と第2回の比較

青字が相違点です。

項  目

第1回

第2回

訓練課題

1 スタッフの対応能力向上(現場での判断)・・・ 火災との大きな違い
2 少ないスタッフでどう対応するか・・・ 以前からの課題
3 お客様をパニックに陥らせないためには・・・ 以前からの課題

日  時

平成24年3月29日(木)午後2時

平成25年3月12日(火)午後2時

会  場

熊本県立劇場 コンサートホール

熊本県立劇場 コンサートホール

概  要

起震車体験〔熊本市中央消防署〕
大石氏講演「災害時の文化施設 生の声」
訓練の流れと避難方法の事前レクチャー
陸上自衛隊第8音楽隊演奏開始
地震発生(震度6弱)→避難誘導
火災発生無しを確認
避難誘導完了
【休憩】
消防署講評
演奏再開
終演
大会議室にてホール関係者と意見交換会

起震車体験〔熊本市中央消防署〕


訓練の流れと避難方法の事前レクチャー
県劇登録アーティストによる演奏開始
地震発生(震度6強)→避難誘導
火災発生→初期消火失敗→避難誘導継続
避難誘導完了
【休憩】
消防署講評→参加者からの質疑応答
演奏再開
終演

参加人数

約300人

約110人

(内訳)

公文協職員100人(38館)
一般130人

スタッフ40人(警備・清掃・機械室委託業者や、レストランスタッフを含む)
出演34人(陸上自衛隊第8音楽隊、ほか)

公文協職員29人(約15館)
一般36人(ボランティアスタッフ9人を含む)

スタッフ40人(警備・清掃・機械室委託業者や、レストランスタッフを含む)
出演3人(県劇登録アーティスト)

勤務想定

スタッフは1班で実施。(主催者役を含む)
*主催者役が多く、スタッフと主催者の区別がつきにくかった反省あり

スタッフをA班、B班に分けてリハーサル。
本番はA班で実施。(主催者役を含む)
B班は観客役として参加
*ビブスでスタッフと主催者を区別

展示内容

防災グッズ(ミドリ安全熊本)
熊本県 防災資料
未来への教科書写真展
自衛隊 支援活動記録写真
県警察 派遣部隊活動記録写真
熊本市 防災マニュアル、ハザードマップ

防災グッズ(ミドリ安全熊本)
熊本県 防災資料

*今回は避難訓練に特化しましたが、前回の展示も好評でしたので、今後も企画してみたいと考えています。

経  費

会場使用料・附属設備使用料・ピアノ調律料
*演奏団体出演料はなし。ケータリングあり。
資料借用料(未来への教科書送料等)
講師の旅費・謝金
チラシ作成費
整理券郵送費
イベント保険加入

会場使用料・附属設備使用料・ピアノ調律料
出演料(3人)

 


*チラシはコピーで自主制作
*整理券はなし

その他

 

ビブス、簡易担架、ハンドマイク、ライト等を購入
リハーサル回数の増加

 

熊本県立劇場避難訓練コンサートについて

実施に至った経緯

これまで当劇場で行ってきた火災訓練は、簡単に言うと次のようなものでした。

平穏な日々。事務所や舞台では十分な数のスタッフが仕事をしています。突然火災報知器が静寂を破ると、真っ先に本部が対応します。火点を確認、現場にスタッフを急行させ(そうそう、電話ジャックやヘルメット、途中で消火器を拾うのを忘れないで)、スタッフや観客に館内放送で状況を説明し、火災が発生していたらすぐに初期消火を。本部は消防署に通報し、非常放送を使ってスタッフにお客様たちの避難誘導を指示します。あわてない、あわてない。できるだけ落ち着いて。発火場所に近い施設のお客様から順番に。ホール以外の練習室やトイレ等のチェックも忘れないで。そうこうしている間に初期消火失敗の報が現場から入ります。さあ、本格的な避難誘導の開始です。発火場所は、消火状況は、避難場所は、避難経路は・・・非常放送が大活躍します。

現場では、放送の指示に基づいて、スタッフが大声でお客様を避難誘導します。火点から遠くへ遠くへ、逃げ遅れた人がいないことを確認したら延焼を防ぐために防火扉は確実に閉めて、煙を吸わないように口元をハンカチで覆って身を低くして。

自衛消防隊長は避難場所で各部署のスタッフから報告を受けます。けが人は、気分の悪い方は、全員無事ですか。では、本部に連絡して本部も避難を。公設消防隊が到着したら、報告事項はこれとこれ、火災現場や進入経路がわかる館内地図を添えて・・・といった筋書きです。きちんとした指揮命令系統が求められます。

この訓練だけでも大変な作業です。広いホール内で本部と各班が連携するには、的確な報告と指示が交わされなければなりません。そこには、消防署への通報や館内アナウンスの要領、消火器や消火栓の使い方、避難誘導方法、防火扉の活用、救急救命などなど、とても高度で重要な内容が沢山盛り込まれています。また、毎回同じ役割ではなく、発火場所や避難経路、対応するスタッフの人数等の設定を変えていく工夫もされています。その結果、年に2回のこの法定訓練をきちんとやっておけば何があっても対応できる、といった変な自信が生まれていたのかもしれません。

特に東日本大震災以来、ホールは安全だという神話が崩れてきました。
今日、南海トラフ巨大地震の脅威が現実になりつつあります。マグニチュード9級(クラス)の地震で、震度6弱以上の強い揺れ、高さ10メートルを超える巨大津波、今後30年以内に同トラフのどこかで起きる確率は60から70%。

もし、たった今この地震が起きたら・・・、私たちは対応できるのでしょうか。

少なくとも複数の県に跨る広い範囲が、かつて経験したことの無い強い揺れに襲われます。ただ強いだけではなく、数分間という長い揺れが襲うのです。

県立劇場でも、真っ先に対応しなければならない本部は、自分の身を守るのに精一杯で、非常放送のマイクまでたどり着けません。その間も、舞台では出演者が天井を不安げに見上げ、客席ではお客様が立ち上がって悲鳴を上げながら逃げようとしている・・・。火災訓練で行っていたトップダウン式の指揮命令系統が機能しない、今までの危機管理マニュアルが役に立たないのです。

震度や揺れの時間によっては壁や天井が崩れてくることも考えられます。火災のときにはきちんと閉めていかなければならない扉が、地震の時には逆に歪んで開かなくなっているかもしれません。地震の後に火事が発生したら、せっかく開けた扉を、逃げ遅れている人がいないことを確認して、延焼を防ぐためにまた閉めていかなければならないのです。ドアから外の通路でも、壁の崩落やガラスの破片等が避難を妨げることが予想されます。

消防署や警察に電話しても、その地域全域が被害を受けているのですから、手一杯で電話は繋がらない、繋がっても駆けつけられない。外部からの助けが期待できない、大地震の直後はそういった状況と思われます。

訓練の目的

目的は命を守ること。
ホールで働くスタッフの命、ホールに来られたお客様たちの命。
この劇場の中にある命を地震の第1撃から守ること、それが目的です。
※この最初の1撃をかわせた後は、直後の津波や余震等に留意しながら対応します。

課題1 スタッフの対応能力向上(現場での判断)・・・火災との大きな違いです

大地震が起こったとき、本部は動けません。自分の身を守るのに精一杯です。せいぜい周りのスタッフに声をかけることくらいしかできないでしょう。
現場も同じような状況なのですが、本部が機能しないのなら、最初に現場が動かなければなりません。少なくとも自分の身を守りながら周りに声をかけることはできるのでは。周りのスタッフへ、お客様へ、出演者へ。

「座席の間に身を隠して、頭を守って・・・」
目指しているのは、自分の身を守り、周りに呼びかけるといった、最初の基本的動作が、考えなくても自然に行えるレベルです。

最初の対応をスムーズに行うためには、次の方法を併せて行うことが有効です。

  • 公演前のカゲアナで、地震が起こった際の対応について観客に説明しておく。
  • 主催者と、事前に中断の条件や協議する責任者を決めておく。

非常時であっても公演を中止するのはとても勇気がいることです。非常時に現場が動きやすいようにするためには、打合せ時等において、主催者や舞台責任者と非常時の対応(公演の中止・中断、観客・出演者の避難誘導)について協議し取り決めておくことです。
また、対応の責任は、現場のスタッフ個人が取るものではありません。スタッフは非常時において「命」を守るために最大限の努力をしているのですから、責任は劇場を管理している団体が取るべきものです。

避難誘導におけるスタッフの対応能力としてもうひとつ大事なことがあります。一人ではなく複数でチームワークを組んで、リーダーシップを発揮できるかということです。
一人だけが頑張ってもそんなに大きな力を発揮できるわけはありません。現場で周りのスタッフや主催者たちとどれだけ協働して動けるか。多くの命を守るためにとても重要な能力です。

課題2 少ないスタッフでどう対応するか・・・以前からの課題です

今までの避難訓練では、スタッフはそれぞれ通報・連絡、初期消火、避難誘導等の役割が与えられ、いつでも十分な数がいるという前提の下に人員配置されているケースがほとんどでした。

実際はどうなのでしょうか?

実を言いますと、公共ホールで働いているスタッフはそんなに多くはないのです。しかも一般の会社と違い、ホールは早朝から深夜まで開いています。また、年末年始を除いては土・日・祝日も休みなく開いているホールも増えてきました。そんな中でスタッフは、最少の人数で、ホールの利用状況に合わせた不規則な勤務形態で多くの業務に対応しながら働いています。

いつ起こるかを選べないのが地震です。本番でないとき、スタッフが大勢いるときに都合よく起きてくれるわけではありません。何千人ものお客様がいるとき、或いはスタッフが少ししかいないときに起きたら、私たちは本当にお客様の安全を守ることができるのでしょうか。

単純に、スタッフを必要十分な数だけ増やすことができればいいのですが、経費削減が強く叫ばれている中、そういった余裕ある館はほとんどないと思われます。
だからといって、放っておいてよいという問題ではありません。余裕がないときこそ、計画的な取組が必要です。最善の解決策がとれないのならば、次善の解決策をとらなければ。既にある館では、観客百人につき避難誘導員が1人必要と算定し、主催者に協力を依頼しています。

少ないスタッフでどう対応するか、この課題について、熊本県立劇場では次の取組みを進めています。

1.業務委託業者やレストラン等、館内常駐業者に対して
初期消火活動や各部署における避難誘導、避難誘導補助等を依頼

2.主催者に対して
危機管理計画書提出を依頼し、危機管理体制表を作成
危機管理体制表をもとに、共同防災管理の立場で、当日打合せ
 ア 責任者の確認:公演の中断・中止・続行等の判断基準について
  ・使用責任者(主催者)
  ・舞台進行責任者(舞台監督)・・・非常時の公演中断・中止等の判断
 イ 出演者及び観客の避難誘導協力依頼(避難誘導員の確保)、事前レクチャー(説明)
  ・ 受付周り責任者及び人数
  ・ 避難誘導責任者及び人数・・・非常時における観客の避難誘導
  ・ 警備、救護責任者及び人数
  ・ 舞台進行補助及び人数・・・非常時における出演者等の避難誘導

3.職員の能力向上
スタッフが少ない状況での訓練実施
観客をパニックに陥らせない対応

課題3 お客様をパニックに陥らせないためには・・・以前からの課題です

避難訓練をコンサート形式で行おうとしたのには、二つの意図がありました。

ひとつには、お客様の立場で見てもらうことにより、スタッフだけでは気づかない問題が見えてくると考えたからです。
実際に、上手な避難誘導方法について、例えば館内アナウンスのやり方によりお客様の不安感・安心感がまるで違ってくること、ライトや身振り手振りの有効性、公演前のカゲアナによる事前説明の効果等、お客様をパニックに陥らせない、落ち着かせる工夫のヒントが見えてきました。
上手な誘導はお客様を早く安全に避難させられます。これは、ワールドカップ出場決定で賑わった渋谷駅のサポーター整理を行ったDJおまわりさんの活躍にも表れています。パニックに陥らないお客様は、スタッフにとって大きな協力者になります。

もうひとつは、楽しみながらの訓練参加が地震対策の広がりに効果的と考えたことです。
最初の避難訓練コンサートでは、公立文化施設協議会職員や劇場ホール等の利用者が対象でした。2回目は、多少簡素化しましたが、定期的に練習室等を利用する主催者もターゲットに加えました。
楽しみながら興味を持って訓練に参加することで、より多くの方がホールにおける基礎的・具体的な対応を効果的に身につけることができます。
(付け加えますと、スタッフの意気込みもお客様が入っているのといないのとでは全然違ってきます。皆、とても気合が入ります。)

今の課題  年に2回では、とてもとても足りない

第2回の避難訓練コンサートが終った後、危機管理PT(プロジェクトチーム)で複数の職員から年に2回の訓練では足りないという意見が出てきました。待ち望んでいた意見です。

既に被災地のみならず全国いくつかのホールでは、地震を想定した訓練を、例えば月に1度定期的に行うといったふうに大幅に増やす動きが出てきていました。或いは、日時・場所等を事前には伝えず、ある日突然実施するといったふうに、訓練のやり方自体を変えたホールもあります。

訓練は、いざというときに役に立たなければ行う意味はありません。年に1~2度やっただけで、それも十分な数のスタッフがいるという前提で行う訓練で、大勢のお客様の安全を守ることが本当にできるのか、避難訓練コンサートを体験することにより職員も不安を感じていたのだと思います。

今までの避難訓練コンサートでも、公演の前にはリハーサルを繰り返していましたので以前より実質的に回数は増えていたのですが、検証やブラッシュアップ、内容の充実、職員の対応能力アップのためにはもっと多くの時間が必要なのです。 とりあえず熊本県立劇場ではそれまでの年2回の訓練を4回に増やすことから始めました。それぞれの訓練についてリハーサルや個別の打合せも増えてきますので、結構な回数になってくるのではないかと期待しています。

 

内容

平成25年度実績

6月

避難訓練コンサート反省会
座学、施設設備確認

平成25年6月3日(月)AM
・各班での反省会 ・館内非常設備等研修

9月

部分訓練
(法定訓練)

平成25年9月12日(木)AM
・職員数が少ない夜間を想定 ・スタッフを4班に分けて実施

12月

教育訓練
座学、施設設備訓練

平成25年12月5日(木)
・救急救命訓練 ・館内非常設備等研修

3月

避難訓練コンサート
(法定訓練)

平成26年3月3日(月) リハーサル
平成26年3月18日(火)PM本番

ちなみに、第3回避難訓練コンサートは平成26年3月18日(火)の午後、コンサートホールで開催予定です。ご期待ください。

最後に

私たちは謙虚に毎年危機管理を見直し改めていく必要があります。
例えば、精密な訓練シナリオはいざというとき役に立たないことが、作ってみるとわかってきます。なぜなら、地震には無限の設定が存在するからです。私たちがまだよく知らない地震についての新しい発見もこれからたくさん出てくることでしょう。精密なシナリオは、スタッフの働きを束縛してしまいます。細かい条件が多くなればなるほど、覚えるのも大変ですし、とっさの際に思い出せません。動けなくなるのです。 ですから、シナリオはいろんな応用ができるようシンプルに作りたい。そこから基本的な対応が見えてきます。
重要なのは、様々な状況に柔軟に対応できる危機管理のプロであるスタッフを育てていくことだと考えています。
(文責:濱崎)